採用時の健康情報収集と雇入時の健康診断について
不規則時間勤務や高所作業、海外転勤などがある企業の場合、採用を行う際や配置を決める際などに、安全配慮の観点から既往歴も併せて心身の健康状態を把握しておきたいと考えるのはもっともなことです。
そこで、今回は採用時に健康情報を収集すること、および雇入時に健康診断を行うことの留意点について、法律上の観点を踏まえながらお伝えいたします。
◇採用時の健康情報収集に関する留意点
最高裁の判例(昭和48年12月12日)によれば、「使用者は、労働者を募集するにあたり、誰を採用し不採用とするかの自由があり、特定の思想、信条を有することを理由に不採用にしても違法行為とはみなされない」とされています。そしてそのことから、血液検査や一般の健康診断などの結果は採用選考の資料となると考えられてきました。
しかし、現在ハローワークでは「採用選考を目的として、健康診断の検査項目について必要性を検討することなく、画一的に健康診断を実施することは、応募者の適正と能力を判断する上で関係のない個人情報を得ることになり、結果として就職差別につながるおそれがある」として、使用者に慎重な対応を求めています。
健康情報は、調査項目や調査方法によって、応募者のプライバシーを侵害する恐れがあります。そのため、企業は情報収集にあたり、業務上の特別な必要がない限り応募者の個人情報を取得すべきではありません。
しかし、業務に関連する項目について、その目的達成のために必要な最小範囲で情報収集を行う必要があります。
「業務上の特別な必要」とは、例えば、広告会社でデザイナーを募集する際には、色を判別できることは業務上必要になってきます。その際には、色覚についての健康情報を収集しようとすることは、法律上許されますが、色覚については、検査において異常と判別される方であっても、大半は支障なく業務を行うことが可能だということが明らかになっており、特別な事情なく採用を制限するのは就職差別となります。
なお、情報収集をする際には、応募者に対する不当な差別、偏見が生じないように収集目的を本人に示してから行うことが必要です。
また、収集した健康情報は採用に関わる担当者しか見られないような体制を取り、不要になった段階で、速やかにかつ確実に破棄することが望まれます。
◇雇入時の健康診断に関する留意点
労働安全衛生規則第43条では、労働者を雇い入れた際に、健康診断を行うことが義務づけられています。健康診断項目は次のとおりです。
1.既往歴及び業務歴の調査
2.自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3.身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4.胸部エックス線検査
5.血圧の測定
6.貧血検査 (赤血球数、血色素量)
7.肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
8.血中脂質検査
(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9.血糖検査
10.尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11.心電図検査(安静時心電図検査)
なお、雇入時の健康診断は、雇い入れ後の適正配置や健康管理に資するためのものであり、採用選考時に実施するものではないこと、ましてや、応募者の採否を決定するために実施するものではないこととされています。
さらに、最高裁の判例(昭和54年7月20日)での採用内定の取消事由も、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされており、これも照らし合わせて考えると、健康診断の結果が良好でなかった場合においても、慎重な対応が望まれるでしょう。
今年は採用活動の開始時期が8月からとなり、その影響で現在も新規学卒者の採用活動を行っている企業も多いかと思われます。また、12月の賞与が支給された後に退社を決める方も多いことから、中途採用市場も活気を帯びてくる時期です。
採用に携わる方は、この折に改めて、健康情報収集や健康診断に関する留意点について、ご確認いただければと存じます。
2015年12月19日 | カテゴリー:労務管理